『ブッダ』の名句
【凡 例】
1.引用した言葉は吹き出しや行間毎に一つのカギ括弧で括り発言順に並べました。
2.同一発言者の台詞が続く場合、同一のコマの中にあれば改行せず続けて表記し、別のコマに変わるところは改行をしました。
3.原典の台詞に句読点が無いため、読みやすさを考慮して適宜空きマスを入れました。
4.斜体は吹き出しで囲わない独白や説明などの台詞です。
5.巻数・頁は四六版ハードカバー本のものです。
● 第 7 巻 アジャセ●
・第五部第9章 竹林精舎
(※「41歳で息子に殺される」という予言があと5年後に近づいたことで)
ビンビサーラ
「ブッダ 私を救ってくれ!!」「どうしたらこの苦しみをなくせるのか教えてくれ!!」
ブッダ
「わかりました その苦しみは私も若い頃経験して知っています」「その方法はひとつです あなたは木になりなさい」「木になったと思いこむのです」
「木は欲をいっさい持たない」
ビンビサーラ
「きみは私をからかうのかっ」「人間が木になれるはずがないじゃないか!」
ブッダ
「木は枯れる 枯れなければいつか切られる」「おので切られる そのとき木はなんと思うかな………?」「いたいとか 苦しいとか なさけないとか思うだろうか?」
「なあ木よ……もしおまえに口があるならわめくだろうな」「目があるなら泣くだろう」「もし動けるなら逃げだすだろうな………」
「しかし木は何もできない だから いさぎよく切られる日を待つだろう」
「セーニャ あなたも」「逃げられない運命なら 勇気だ 覚悟だ 正しい行動だ 正しい生活で…その日を待つのです!」
「……アッサジのように………」
ビンビサーラ
「アッサジ?」「アッサジとは?」
ブッダ
「自分の死を何年も前から知っていて 静かにその日をむかえた男です」「あなたに死の予言をした男ですよ」(20〜22頁)
・第六部第1章 サーリプッタとモッガラーナ
サーリプッタ
「『ブッダ』っていわれましたな 『目ざめた人』という意味だ」「すると そのかたはあなたの先生?」
アナンダ
「そうです シャカ族の出身で 悟りをひらいた尊いおかたなんです」
サーリプッタ
「そのかたの教えはどんな?」
アナンダ
「ウーン………」「私ア まだ弟子になりたてのホヤホヤで」「とてもいえません」
サーリプッタ
「教えの要点でいいから話してくれませんか?」
サーリプッタ
「ウーン………」
「あらゆる苦しみはかならず原因から生まれる ブッダはそれらの原因を説き明かされる……」「あらゆる苦しみはかならずとめることができる ブッダはそれらのとめる方法を説き明かされる…」
サーリプッタ
「あらゆる苦しみには原因が…………………………」「あらゆる苦しみにはとめる方法が……」「ウーム真理だ」
「すばらしい……」(154〜156頁)
・第5章 ルリ王子との再会
(※ブッダを襲った際に地割れに転落したアヒンサーに対して)
ブッダ
「アヒンサー……おまえにたずねるが 私を殺したとしてそのあとはどうする気だね?」
アヒンサー
「どうするって まだなんにも考えてやしねえ とにかくきさまをブチ殺してえ」
「おれはな……世界一えらい坊主を殺すと誓ったんだ!」
ブッダ
「それは聞いている だがそのあとの計画は?」
アヒンサー
「フン!!計画なんかねえ それでおれののぞみは終わりだ」
ブッダ
「つまらん人生だな」
アヒンサー
「つまらん? クソ坊主にわかってたまるもんかいっ」
ブッダ
「強がりをいうな おまえは ただヤケクソになったあわれな人間だ」「前にもおまえにいったことがあるな……生まれ変わって新しい人生をふみだしてみないか?」
「私が手伝ってもいいぞ」
アヒンサー
「チェッ てめえの助けを借りるくらいならここで死んだほうがましだっ」
ブッダ
「じゃあなぜ『助けてくれ』といったんだね?」
アヒンサー
「……………………」(301〜302頁)
アヒンサー
「苦し〜ッ 息がつまって死んでしまう!!ゲホ…ゲホ」「お願いだーっ ここから出してくれーッ」
ブッダ
「アヒンサー……落ち着け…たとえ助けがまにあわなくても おまえの心持ちしだいでらくになれるぞ」
アヒンサー
「おれァ死ぬのか?」「死ぬって苦しいのか?」
ブッダ
「おまえしだいで苦しくもらくにもなる」
「おまえはいままでに何百人も殺したという だが 一度ぐらいなさけをかけてやったことはないか?」
アヒンサー
「あ…ある 赤ん坊だっ ひとり見逃してやった!」「あんまりかわいかったからな 殺さなかったんだ……」
ブッダ
「もしそうなら それだけでおまえは大きな善をほどこしたのだ なぜならその子は無事に育ち子孫をふやすことができるだろう」
アヒンサー
「それがどうだってんだ…………」
ブッダ
「かりにあと百年たって その子の子孫が百万人にふえ こういうだろう」「百年前ある人間が命を助けてくれた そのおかげでこんなに栄えてるんだとね」「おまえはあがめられ その一族に永久に語り継がれる」
アヒンサー
「お…おれがあがめられ……じょうだんじゃねえ!!おれは…何百人も殺した殺人鬼だぞッ」
ブッダ
「百人殺すのはよくない だがな ひとりを生きながらえさせるのはとうとい 百万人になるからな………………」
アヒンサー
「フウ………………ウウ……」「ブッダ お おれもう……ダメだ」
ブッダ
「おまえはこれからふしぎな世界へいく」「そこには 宇宙のあらゆる霊が集まる」
「そこで胸をはってこういうがいい 『おれは赤ん坊を助けたアヒンサーだ!』とな」
アヒンサー
「ブッダ……そ それを聞いて…気がらくになったよ………」「おれ……弟子にしてくれませんか?」
ブッダ
「いいとも 生まれ変わってやってきなさい」
アヒンサー
「う…生まれ変わって………か………」
ブッダ
「アヒンサー」「……………………」(306〜308頁)
・第6章 意志と意志
(※コーサラ国に侵略されたカピラヴァストウ城において、コーサラ国ルリ王子やシャカ族の人々などを前に)
ブッダ
「私の故郷の人たち……あの大空の雲を見なさい!」
「ジーッと見ているうちに ゆっくり ゆっくり 雲は姿を変えていくだろう」
シャカ族の人々
「……そういえばあの雲 おれのおふくろの顔に似てら」「かと思うとブタになってきたりして」「わっ 今度はオットセイにも似てきたぞ」「アニメみたい」
ブッダ
「雲は一度として長い時間同じ形をしていない それにときには雨をふらせ嵐まで起こさせる」
「人間の運命もそんなものなのだ………」
「そう 人の運命は雲の形のように けっしてじっとしていない」
「いま王者の生活をしていたかと思うと つぎにはこじきにおちぶれる」
「人の一生は雲のように変わる けっして 一生涯おんなじように 幸福だったり不幸だったりするものではない」
「しかも雲は自分のちからで変わってるのではなく……」「風の流れとか 気温とか 太陽とか 昼や夜とかのせいで変化していくのだ」
「同じように人の運命もいろんな原因がもとで変わっていく」「そうです…………どんな運命にもきっと原因があるものだ」
「二十年前私も……」
「ある仙人に病人とか死んだ人間を見せてもらい そのときのショックが原因で 城を捨てる決心をした」「それが私の修行のきっかけだった……………」
「もし あたたかい太陽と たっぷりと水があるところに木がはえたとしても たとえば根っこがくさっていたり 地面の下で石に押しつけられたりしていたら」「その木はまともには育たないでしょう 原因が見えないので みんな気がつかないうちにその木は やせ細って枯れてしまうでしょう」
「カピラヴァストウの人たちは 豊かで ひまをもてあましていた 毎日酒盛りと踊りにあけくれて やることといえば派閥争いだけだった」
「シャカ族の社会はくさりはてていた…そんな社会で育ってもろくな王になれず いずれからだを悪くして死ぬことはわかっていた」「だから私は肉親を捨て…わが子のラーフラさえ捨てて去ったのだ」
(※ラーフラとの再会)
ブッダ
「どんな小さなことでも 原因があればかならず結果が生まれる!これは自然のおきてなのだ」「シャカ族の人たちよ!いま みなさんは苦しくつらい毎日を送っているが こんな結果になるにはどんな重大な原因があったか 思いだしてみなさい!」
「同じようにコーサラの人たちよ!いま みなさんは思うがままにシャカ族を迫害している………これが将来どんな恐ろしい結果を生むか……」「それを おそれなさい!!」
コーサラの大臣
「んな…んな…んな…………」
「ブッダの発言は おだやかではありません!!」「ヤツの口を閉じさせましょう!!」
ルリ
「ほうっとけ ボウスのタワごとだ!」
コーサラの大臣
「へい」
ブッダ
「シャカ族の人々よ いまこそ未来のために ぜひともやってほしいことがある!」「いまこそ正しい心で正しい行ないをやるのだ」「ヤケクソになるな 苦しくとも正しい心と正しい行ないさえつづければ…」「それがきっと未来によい結果になってあらわれる!」
シャカ族の老人
「ワヒはこの年じゃ もう未来なんかニャアだ ワヒはもうジュきおっしぬわいな」
ブッダ
「ご老人」「心配しなさるな……死んでもすぐ生まれ変われるのだから」
老人
「フントかね!?ワヒがフまれ変わるなんて……ホンなこと信じてええのかいね」
「ヒャーありがてえーこんだ わヒャーせいいっぱい正しいことをするぞな」
アヌルッダ
「もうやめてくれ」「ブッダ 私たちにはそんなことしたって 心の安らぎはこない!!この奴隷の境遇からぬけださなきゃだめです!」
ブッダ
「どうやって?」
アヌルッダ
「もちろん蜂起です」
「全員が命をかけて戦うのです!」
ブッダ
「戦えばまた うんと死ぬ人が出るぞ…………」「それならコーサラ人の仕打ちとかわりはしないではないか?」「私がいま因果(原因と結果)の話をしたばかりなのに……」
アヌルッダ
「じゃルリ王子はどうなんです 平気な顔であすこにフンぞり返っているじゃないですか!!」
ブッダ
「それなら教えてやろう!」
(※ルリ王子を指さし)
「あなたがたよりもっと苦しんでいる人間がそこにいる!」「何百人も殺し 自分の母親まで見殺しにした思い出を背負って!!」「たぶん死ぬまで後悔しつづけよう それは拷問より けがや病気より もっと もっと もっと悲惨なのだ!!」
ルリ
「だまれーッ」(343〜353頁)
・第7章 解放の日
ブッダ
「ルリ王子 医者というものはどうやって人間をなおすものかな」
ルリ
「それがどうした?」「医者ってのは患者の病気を調べる 原因がわかったら薬をやる」
ブッダ
「そのとおりですな」
「患者がたとえばいたい いたいところげまわってるだけでは病気の原因はわからない 患者の話を聞き診察をして原因を調べるのです」
ルリ
「そんなことは知ってる!!それがなんだというんだ」
ブッダ
「つまり私は医者だ」
ルリ
「フえ」
ブッダ
「いうなれば」「人間の心の病気をなおす医者なのです」
「あなたは患者です」「きのうあなたの訴えを聞きました」
「あなたはその苦しみが 生まれながらに背負った運命のように思いこんでおられるが それはちがいます」「その苦しみは あなたの母親が女奴隷だったからではない……」
「その母君をあなたがないがしろになさって 悲しい死にかたをさせたことをくやんでいるから苦しいんです」「母君の供養をなさい 心をこめた供養をなされば」「その苦しさは消えます」
「もうひとつ苦しみの原因がありますな」「それはシャカ族を大勢殺したことへの後悔だ」
「その苦しみのほうは大きな決断がいりますぞ シャカ族を許しあなたは軍隊といっしょにコーサラ国へ帰りなさい そうすれば苦しみはとれます」
ルリ
「なんだとッ」
ブッダ
「いっさいをもとの姿にもどす!」「それ以上の殺りくはしなくてすむ それであなたの心はすっかりなおります」
ルリ
「バカもやすみやすみいえッ!!」「このカピラヴァストウの占領をといて国へ帰れだと?」「この国のやつらをひとり残らず許してやれだと!?」「ふざけるなっ」
ブッダ
「さっきいいましたろう わたしは医者だ あなたという患者から苦しさをとるために治療法をいったまでのことです」
「その治療法をなさらないかぎり あなたの苦しみは一生とれませんぞ ルリ王子」
ルリ
「話にならん!!こんなところにきた時間がむだだったわっ……」
「最後の忠告をしておくッ 一時間以内にここを立ち去れ!!さもないと兵隊にきさまたちを殺させる!」「おどしではないぞっ」
(※カピラヴァストウ城に帰って)
ルリ
「治水工事の能率を倍にあげろッ」
コーサラの兵
「かしこまりました」
ルリ
「お…おれは……負けんぞ 権威と誇りのためなら どんな苦しさだってたえぬくぞ!」(380〜385頁)
ルリ
「おまえを呼びもどしたのはほかでもない!おれの母親のことで相談がある」
ブッダ
「供養をなさりたいのですか?やっとその決心をなされたか」
ルリ
「おまえにその供養をやってもらおう」「ただし条件がある」
「おれの母が奴隷女だったということをいますぐ忘れろッ」
ブッダ
「なぜですか?」
ルリ
「おれにもプライドがあるっ」
「供養をやるからには金をかけ 貴族や有名人を呼び 最大級のお祭をやるつもりだ」「そんな中でおれの母が奴隷出身だったなんて公表できるかっ」
「……だから母に貴族の身分をあたえ奴隷から出世させる 今後母のことを奴隷だといいふらすやつは………」「即刻死刑だっ」
ブッダ
「母君にそんなことをしたって なんの解決にもなりはしません」
ルリ
「なんだと!?」
ブッダ
「王子よ あなたは体裁とかメンツばかり気にしておられるようだ」
「奴隷だろうが貴族だろうが母君は母君でしょうが!」「きのうも申しあげた あなたの苦しみは母君が奴隷だったからじゃないっ そんなことをしたってあなたの苦しみはなおりませんっ」
ルリ
「なにおっ」
ブッダ
「たとえ話をしましょう 王子よ あなたは貴族の庭園から生まれたどす黒くみにくいゾウと ごみ捨て場から生まれた白ゾウと どちらをうやまいますかな?」
ルリ
「ウ……………」
ブッダ
「白ゾウでしょう?」
ルリ
「…………」
「ごみためから白いゾウなど生まれるものかッ!!」
ブッダ
「しかしその白いゾウは あなたを生んだ!!」
(※打ちのめされ、崩れ落ちるルリ王子)
「ごみ捨て場で生まれようと 庭園で生まれようと ゾウはゾウなのです!人間も同じだ 母君は奴隷女だったといわれるが」「どう生まれようと どういう身分だろうと あなたの母君は母君だ なにがはずかしいのか!?」(396〜400頁)
(2569.05.22)
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