最澄様の残されたお言葉


 日本天台宗の宗祖・傳教大師最澄様は1387(西822・弘仁13)年に56年の生涯を閉じられました。その著作は勿論ですが、そのお弟子達が書き留めたお言葉にも大変含蓄があります。ここに主なものの原文と読み下し文を並べて掲示しておきます。最澄様の語りかけたお言葉を直に感じていただきたいので現代語訳は省き、特に必要と思われるところには註を付けました。
 原文は『傳教大師全集』(世界聖典刊行協会)収載のものを底本とし、漢字は表示の都合で適宜字体を改めました。元の字は原文をご参照ください。作成に当たっては「深入経蔵」に示した『傳教大師全集』等に依りました。ここに謝意を表しますm(__)m。

  

「根本大師臨終遺言」  漢文(『全集』巻一 299〜301頁)

一弘仁十三年四月。告諸弟子言。若我滅後。皆勿着俗服。 一又我同法。不得飲酒。若違此者。非我同法。亦非佛弟子。早速擯出。不得令踐山家界地。若爲合薬。莫入山院。
一又女人輩。不得近寺側。何況院内清淨之地乎。
一又我自生以來。口無麁言。手不笞罰。今我同法。不打童子。爲我大恩。努力努力。
一又我同法中。第一定階也。先受大乗戒者先坐。後受大乗戒者後坐。若會集日。一切之所。内秘菩薩行。外現聲聞像。可居沙彌之次。除爲他所譲者。
一第二用心也。初入如來室。次着如來衣。終坐如來座。
一第三充衣也。上品人者。路側淨衣。中品人者。東土商布。下品人者。乞索随得衣。
一第四充食也。上品人者。不求自得食。中品人者。清淨乞食。下品人者。親施可受。
一第五充房也。上品人者。小竹圓房。中品人者。方丈圓室。下品人者三間板室。造房之料。修理之分。秋節行檀。諸國一升米。城下一文錢。
一第六充臥具也。上品人者。小竹藁等。中品人者。一席一薦。下品人者。一疊一席。故巨畝之地價。非是我等分。萬餘之食封。非是我等分。僧統所検天下伽藍。不是我等房。大師釋迦多寶分身來集之日。答文殊問不許問訊求聲聞者。不許住一講堂中。不許共行一經行處。是以。乞食朝來。受撮飯而供山中飢口。行檀秋節。納寸布而着雪下裸身。衣食之外。更無所望。但除出假利生者也。
  

「根本大師臨終遺言」  読み下し文

一 弘仁十三年四月、諸弟子に告げて言はく、若し我が滅後に皆俗服を着すること勿れ。
一 又我が同法、飲酒することを得ざれ。若し此に違はば我が同法に非ず。亦佛弟子に非ず。早速に擯出して山家の界地を踐ましむることを得ざれ。若し合薬の爲にも山院に入るること莫れ。
一 又女人の輩を寺側に近づくることを得ざれ、何に況んや院内清淨の地をや。
一 又我れ生れて自り以来、口に麁言無く、手に笞罰せず、今我が同法、童子を打たずんば、我が爲に大恩なり、努力めよ、努力めよ。
一 又我が同法の中には第一は定階(序順)なり。先に大乗戒を受くる者は先に坐し、後に大乗戒を受くる者は後に坐す。若し会集する日には、一切の所、内に菩薩の行を祕し、外に聲聞の像(かたち)を現じて、沙彌の次に居すべし。他の爲に譲られたる者を除く。
一 第二は用心(心の在り方)なり。初めに如來の室に入り、次に如來の衣を着し、終りに如來の座に坐せよ。
一 第三は充衣なり。上品の人は路側(道に捨てられた布切れ)の淨衣、中品の人は東土の商布、下品の人は乞索随得衣なり。
一 第四は充食なり。上品の人は不求自得食(木食)、中品の人は清淨乞食、下品の人は親施を受くべし。
一 第五は充房なり。上品の人は小竹(ササ)の圓房、中品の人は方丈の圓室、下品の人は三間の板室とす。造房の料、修理の分は、秋節に檀を行ぜよ(布施をいただく)。(上限は)諸国は一升の米、城下は一文の錢なり。
一 第六は充臥具なり。上品の人は小竹・藁等、中品の人は一席一薦(筵・茣蓙)、下品の人は一疊一席なり。故に巨畝の地價(広い土地)は是れ我等が分に非ず。萬餘の食封は是れ我等が分に非ず。僧統所検の天下の伽藍は、是れ我等が房に非ず。大師釋迦、多宝分身來集の日、文殊の問に答へて聲聞を求むる者を問訊することを許さず、一講堂の中に住することを許さず、一の経行處に共行することを許さず。是を以て食を朝來に乞い、撮飯を受て山中の飢口に供し、檀を秋節に行じ、寸布を納れて雪下の裸身に着せよ。衣食の外更望む所無し。但だ出假利生の者を除く。

  

光定撰『傳述一心戒文』より

  ・上巻(『全集』一巻 535頁)

 ○以怨報怨怨不止。以徳報怨怨即盡。莫恨長夜夢裏事。可信法性真如境。
  怨みを以て怨みに報ぜば、怨み止まず、徳を以て怨みに報ぜば、怨み即ち尽く。長夜夢裏の事を恨む莫れ。法性真如の境を信ずべし。

  ・中巻(同 576頁)

 ○爲我勿作佛。爲我勿冩經。述我之志。
  我が爲に佛を作る勿れ、我が爲に經を冩す勿れ、我が志を述べよ。

  ・下巻(同 640〜641頁)

 ○道心之中有衣食矣。衣食之中無道心矣。
  道心の中に衣食有り、衣食の中に道心無し。

  

釋一乗忠撰『叡山大師傳』より(『全集』五巻付録39頁)

 ○毎日長講諸大乘經。慇懃精進令法久住。爲利國家。爲度群生。努力努力。
  毎日諸大乘經を長講し、慇懃に精進して法をして久住せしめん。國家を利せんが爲め、群生を度せんが爲めなり。努力めよ、努力めよ。

 ○我同法等。四種三昧勿爲懈倦。兼年月潅頂時節護摩紹隆佛法。以答國恩。
  我が同法等、四種三昧を懈倦(けげん)すること勿れ。兼ねて年月に潅頂し時節に護摩し佛法を紹隆して、以て國恩に答ふべし。

 ○但我鄭重託生此間。習學三學弘通一乗。若同心者。守道修道相思相待。
  但だ我れ鄭重に此間に託生して、三學を習學し一乗を弘通せん。若し心を同じうする者は、道を守り道を修め、相思い相待て。




(2566.9.22)




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