『ブッダ』の名句



  【凡 例】
 1.引用した言葉は吹き出しや行間毎に一つのカギ括弧で括り発言順に並べました。
 2.同一発言者の台詞が続く場合、同一のコマの中にあれば改行せず続けて表記し、別のコマに変わるところは改行をしました。
 3.原典の台詞に句読点が無いため、読みやすさを考慮して適宜空きマスを入れました。
 4.斜体は吹き出しで囲わない独白や説明などの台詞です。
 5.巻数・頁は四六版ハードカバー本のものです。


● 第 1 巻 カピラヴァストウ●

  ・第一部第1章 バラモン

タッタの姉
 「よく聞きな あたいたちのシキタリではね ものを人さまからとるってことは生きるためのケンリなんだよ とられるほうが悪いんだわさ」「たぶんおまえはボケーッとして歩いてたんだろう 自分のせいだわさ」
チャプラ
 「だまれっ ケダモノ!!」
タッタの姉
 「じゃあ聞くがね 王さまはお役人からふんだくり お役人は町の人間からふんだくり・・・」「町の人間は奴隷からふんだくり 奴隷はコジキからふんだくる!」
 「じゃあ コジキはだれからとりゃいいんだい?」「あたいたちの下にだれがいるってんだよ!」(55〜56頁)

  ・第3章 ブダイ将軍

 「僧侶や神官は 自然の神秘的なできごとや 恐ろしいちからを すべて 神のすることだと説明した だから神をまつり 神に仕えて祈れと教えた」
 「だが 神にすがったところで 人々ははたして不幸から逃げることができただろうか?」
(118頁)

  ・第4章 告知

 「ひでりと 嵐と 疫病と 飢えの中で インドの人たちは一度に大勢が死んでいき そして 苦しみながらまた立ちあがるのだ」
 「どんなにバラモンが神に祈り どんなに偉大な王がよい政治をしようとしても この苦しみだけは人々はまぬがれなかった」
 「ある人々はそれを輪廻というものだと説いた」
 「生きものは 生まれて死に 死んで生まれ変わり 永遠に輪のようにつづく運命で 苦しみからのがれることはできない・・・」
 「人間はなぜ苦しむのだろう なぜ生きるのだろう なぜ こんな世界があるのだろう なぜ 宇宙は こんな世界をつくったのだろう」「人々は その答えを知りたかった そして それを解ける人はまもなくあらわれようとしていた その偉大な人は あと四か月のちに この世にうぶ声をあげるはずであった」
(158〜160頁)

  ・第5章 チャプラ

(※ヘビからタマゴを分けてもらうためにヘビに呑まれたタッタを見て、ナラダッタはバラモンのために火中に身を捧げたウサギの話を思い出す)

ナラダッタ
 「おおお・・・・・・」

 「アシタさま!! 師よ!師よ! わかりました! あのお話の意味が・・・・・・・・・」

 「アシタさま! この子ははっきり教えてくれました!」「私は・・・・・・ いままで人間中心になんでも考えてきた だから ウサギが人間のために身を焼いてたべられる気持ちがわかりませんでした!」
 「この大自然の中では 人間も けものも ヘビも同じ仲間・・・」「その仲間同士 助け合うのが生きもののおきて・・・・・・」「い いまこの子のやったことで 私はわかりました」(208〜209頁)

  ・第10章 予言

アシタ仙人から弟子ナラダッタへの心の声
 「ナラダッタよ」「わしはアシタじゃ」「おまえはタッタという使者をわしのもとへ送ったか!」
 「このバカ者めっ 大タワケめがっ」「おまえはおろかにも たったひとりの人間を救うために 動物たちを無理に何頭も走らせ・・・・・・」「そして一ぴきずつ殺していった 無理なちからを出しきった動物たちは苦しんで死んだのじゃ」
 「おまえは人間の命は尊く けものや鳥の命はいやしいと思っている・・・」
ナラダッタ
 「で、でも しかし チャプラの命は救えました!」
アシタ
 「そのチャプラとかいうけが人の命は救えたが 死んだ多くのけものたちの命は もう 救えん!!」「命の尊さは どんな生きものも同じじゃ!」(350〜351頁)


● 第 2 巻 四門出遊●

  ・第二部第1章 王子

(※ウサギ狩りの最中に溺れ死んだ友人を見て)

シッダルタ
 「このウサギはついさっきまで生きてとびはねていたのにもう殺された・・・・・・」「この子もさっきウサギを殺したばかりなのにもう死んじゃった」
 「死がいがふたつならんでる 死んじゃえば人間もウサギもおんなじようにねてるだけだ」
 「生きものってなぜ殺し殺されるんだろう」「人間はどうして生まれて死ぬんだろう」(33頁)

  ・第2章 瞑想の園

ブラフマン
 「死ぬのはなにも人間だけじゃない」「虫も鳥もけものも木も草も 生きものはみんな死ぬ・・・・・・」
 「あなたは 生や死について 人間にきこうとしておるが できたら 鳥やけものに聞きなされ」「彼らのほうが よーく知っとるでな・・・・・・」(56頁)

  ・第3章 奔流

(※城を抜け出したシッダルタがタッタやミゲーラと見たもの)

シッダルタ
 「…おばあさん歩けないの ここまでどうやってきたの?」
老婆
 「あい・・・・・・三日前に捨てられましたのじゃ…」
シッダルタ
 「す…捨てられたんだって!? いったいだれに? なんでこんなひどいことを!」
老婆
 「あい せがれにですじゃ」「しようがないのですわえ これも運命とあきらめておりますじゃ」
シッダルタ
 「血も涙もないひどいやつだ! おかあさんを捨てるなんて…悪魔に食われてしまえっ」
老婆
 「せがれ夫婦には八人もこどもがありましてな ただでさえひもじいくらしじゃで ばばは おらんほうがよいのじゃ」
シッダルタ
 「いったいどうなってるんだ 捨てられたほうが捨てたほうをかばうなんて狂ってる!!」
老婆
 「お若い旅のお人 ばばはもう年をとりすぎました」
タッタ
 「シッダルタさんよ いいかげんにして出かけようぜ きりがないよ」
シッダルタ
 「このあわれなおばあさんを…」「このままほったらかしで いっちまうつもりなのかっ」
老婆
 「旅のおかた 都へおゆきかえ……」
シッダルタ
 「ああ……」「おばあさんも都かい?」
 「こんな悲惨な人もいたのか!」
タッタ
 「ばかにショックをうけたようだなア」
シッダルタ
 「世の中に親を捨てるほどまずしい人たちがいるなんて」
タッタ
 「へッ このばばあは奴隷階級だよ」「おまえさんは奴隷やバリアというのは…」
 「身分がちがうからつきあったこともねえだろうがね これが現実なのさ」「おまえさんらと同じ人間さね ただメッタメタにまずしいだけさ!」
シッダルタ
 「おばあさんっ」
 「し……… 死んだ!!」
 「た たったいまのいままで生きていたのに…」「これなら…せめて水をのませてやりたかった」
タッタ
 「さ いこうぜ大将」
シッダルタ
 「……ぼくは…もういかない……」
タッタ
 「なんだってェ」「そんなもんにいちいちかかわっていたら」「日がくれちまわァな」
シッダルタ
 「ぼくは帰る!!」
タッタ
 「おまえさんにもこまったもんだ… そんなばばあを見て また神経質になったのかい」
シッダルタ
 「タッタ いろいろ現実を見せてくれてありがとう でも……」「こんなにショックをうけたことははじめてだ」

  (略)

シッダルタ(老婆の亡骸の両手を取る心象場面)
 「おばあさん……… さようなら………」「おばあさんの死はムダにはしないからね」(124〜128頁)

  ※この巻には有名な「四門出遊」の場面が出てきますが、同趣旨の内容ながらより情景が訴えかけてくると判断しこちらを引用しました。

  ・第8章 五人の行者

  ※五人の行者の名前は物語の進展に伴いわずかに変化しており、後の巻に出てくる表記を採用しました。

ワッパ
 「……そなたはなんのために」「ヨガをやるのだ?」
シッダルタ
 「……世の中を救いたいから……苦しみを体験してその方法を見つけるんだ」
ワッパ
 「世を救う?」「ハ! だいそれたことだ」「そなたにそんなちからはあるのか?」
シッダルタ
 「あるかないかは まだわからない」
ワッパ
 「じゃあ聞くが 世を救うとはどういうことなんだ?」
 「聞けば そなたはバラモンを認めず なんとバラモンもスードラも身分のへだてはないとぬかしておるそうだな!」「そのわけを聞こう」
シッダルタ
 「バラモンもクシャトリアもバイシャもスードラもみんないずれは死ぬ!」「バラモンだから死なないなんてことはあるまい」
 「バラモンだって病気や老衰の心配はいつもつきまとっていよう」
ワッパ
 「そりゃそうだ…」
シッダルタ
 「そういう意味で バラモンもスードラも身分のわけへだてはないと思うのだ」
マハーナーマ及びジャーヌッソーニ ※註
 「だまらっしゃいっ」「おまえのはりくつだっ」
 ジャ「同じ死ぬのでも バラモンは気高く死に 死んでから花園につつまれた神々の国にいけるのだぞ」

  ※五人の行者のうち、長髪の逆さまの行者および色黒の顎髭を生やした行者については作品中においてほとんど出番が無く、個々に自ら名を名乗ったり名を呼ばれたりする場面が管見では見あたらず、名の確定ができない。が、経典において五人の行者に比定される最初のブッダの五人の弟子にマハーナーマの名がある(ジャーヌッソーニは無し)ことから、作品中にてブッダが五人の行者を弟子にした時点で存命している長髪の逆さま行者をマハーナーマ、第2巻のみの登場となる色黒の顎髭を生やした行者をジャーヌッソーニと推定する。

ジャーヌッソーニ
 「それにくらべ いやしいスードラどもはノタレ死にをして 死後は地底のオオカミや山イヌどもに骨までしゃぶられるのだっ」「どうだ 同じ死ぬのでもこれだけちがうのだぞ!!」
シッダルタ
 「ぼくは疫病で死ぬ人を何百人も見たことがある 疫病はバラモンとスードラと身分を区別するだろうか?」
ジャーヌッソーニ
 「ウ……ン 病気はしようがないわいっ 病気には身分なんて関係ないもんね」
シッダルタ
 「じゃあ洪水はどうだ? 日でりはどうだ イナゴの大群は?」「身分を選んで苦しめるだろうか?」
 「……身分を決めたのは人間 身分で苦しむのも人間 自然界とは関係ないことだ 雨や嵐や日でりで人間が苦しむのはだれも同じだ もし世界の終わりがくれば だれもかれも死んでしまう……」
コーンダンニヤ
 「そのとおり! いつかは世界の終わりがくるだろう それを知りながらなぜ人を救うのか?」
シッダルタ
 「ある人が毒矢にあたったとしよう その人の友だちや肉親の人は心配して……」
 「医者を呼んでこようとオロオロする ところがその人はこういう 『私はつぎの問題が解決しなければ この矢をぬく気にならない』」
 「この矢を射た人は王さまかバラモンかスードラか その人の名はなんといって 背の高い人か低い人か その人の皮膚は白か黄か黒か 村人か町の人か 弓はふつうの弓か強弓か」
 「そう聞いているうちに」「毒がまわってその人は死んでしまったそうだ」
 「これと同じことだ 世界が滅びるかどうか気にしているうちにぼくは死んでしまう だからこそ生きてるうちに………」「やりとげなくてはならないんだ どうだね?」(322〜326頁)


(2567.10.1)


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